NHK放送文化研究所のシンポジウムの感想の続きです。

NHK放送文化研究所

2013年 春の研究発表とシンポジウム」

 

シンポジウム  

ソーシャルパワーがテレビを変える~

 

(3)情報発信の民主化

 

 テレビで「天空の城ラピュタ」が放送されるとクライマックスでたくさんの人がテレビに合わせて「バルス!」とツイッターでつぶやく。201112月9日の放送では、全世界で14594/秒で、世界最多記録となったそうだ。つまり、それだけの人がその瞬間はテレビを見ていたということである。

 

(グラフは下記ページを参照)

http://blog-imgs-44.fc2.com/n/e/w/news020/4e33ccb7.jpg

 

 この結果を見て、日本テレビの岩井氏はSNSを利用して視聴率の向上をはかろうと試みた。「エヴァンゲリオン」の映画をテレビ放送するのに合わせて、データ放送やスマホで参加できるゲームを作成し、放送に合わせて楽しんでもらうものだ。ヤシマ大作戦に参加する気分が味わえるという仕掛けである。しかし、残念ながら、それほど視聴率は上がらなかったようである。

 

(エヴァンゲリオンについては以下を参照)

http://news.livedoor.com/article/detail/7116282/

 

 このことは何を示しているのか。データ放送では、テレビの画面にゲームの状況も表れる。テレビはほぼ飽和に近く普及しているとはいえ、一人一台のメディアではない。テレビは通常、家庭の中でも居間に置かれている。特に地上デジタル放送に切り替わったばかりで、それに対応するテレビが1家庭に2~3台も普及はしているとは考えにくい。テレビは家族の共有物なのである。その状況で、家族の一人がデータ放送を使って遊ぶことはしにくいであろう。スマホもまだ普及途上であり、番組を見ながらスマホを使ってゲームに参加するのはそれほど多くはないかもしれない。つまり、ハードの普及率の低さが視聴率が上がらなかった要因の1つと考えられる。

 しかし、より大きな要因として、注目したいのは、「放送局から仕掛けられたゲームであった」という点である。ラピュタの「バルス」の場合、自然発生的に盛り上がって爆発したものであって、マスメディアが仕掛けたものではない。そこには、能動的な参加があり、フラットな関係性があって、参加者たちの一体感が生まれたのだ。これは、東日本大震災の後の節電が行われていたとき、ネット上で「ヤシマ大作戦だ」と不特定多数の人たちが呼びかけ合って、節電を積極的に行ったという現象にも通じる。

 インターネットによって、人々の意識は大きく変化している。インターネット以前の時代には、情報を発信できるのはマスメディアであり、そこに参加出来るのは、高い教育を受けた特別な人々、エリートだった。そして、マスメディアは第3の権力とも呼ばれ、世論の形成に大きく関与し、流行を生み出し、文化を育ててきた。今もマスメディアに関わる人たちは当時と同様に高い教育を受けたエリート階層である。しかし、情報はマスメディアが高いところから降り注ぐようなものではなくなっていて、誰でも発信できる。マスメディアは情報を誰にでも手に入るものにした点で情報の民主化を達成したが、インターネットは、情報発信すること自体を民主化した。

 

 インターネットでは、すっぴんからメイクをしていく過程を公開したブログが人気である。素顔はごくあどけない、どちらかというと地味な顔立ちの女の子が、メイクをどんどん盛っていって瞳の大きな華やかな美女に変わっていく。「自分も出来るかも」という共感を呼ぶ。雑誌で活躍する美人モデルたちはプロのスタイリスト、美容師、エステティシャンなどによって作り上げられた特別の存在である。一方、自分でメイクを作り上げていく女の子は自分たちとフラットに繋がっている。雑誌のモデルを見て、「あんな風になりたい」というより、ブログを見て「私にも出来る」と思えることが今の時代の流行をつくる。

 

 「エヴァンゲリオン」のテレビ放送に合わせたオンラインゲーム展開が視聴率に繋がらなかったのは、ハードの普及率の低さよりも、この情報発信の民主化による人々の意識変化の方が主要な原因であったと考える。